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[意匠/米国]米国意匠と包袋禁反言 TOP BRAND vs. COZY COMFORT COMPANY事件の実務への影響

 今回ご紹介するのは、意匠権における包袋禁反言を明確に肯定した米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の判決です。TOP BRAND vs. COZY COMFORT COMPANY事件で、審査過程で拒絶理由の解消のために出願人が行った限定的な主張が、後の侵害訴訟における権利範囲の放棄として機能すると判断されました。このような包袋禁反言自体は以前から実務上の常識ですが、意匠権にも適用されることを明確に示した意義は大きいといえます。

 事案の骨子は次のとおりです。原告は米国登録意匠USD859,788(以下「登録意匠」といいます)を根拠に、被告のイ号意匠による侵害を主張しました。ところが、登録意匠の出願段階で、米国登録意匠USD728,900(以下「引用意匠」といいます)との類似を理由とする拒絶を受けており、その対応として原告は登録を得るために、ポケットが横幅に占める割合、ポケットの形状、腕の付け根の位置、そして裾の形状について、限定的な相違を強調する主張を行いました。裁判所は、この審査過程で出願人が実質的に放棄した特徴については、後の侵害訴訟で類似性の根拠として用いることはできないと判断し、結果として原告の権利行使を認めませんでした。すなわち、出願時に登録のために限定した(あるいは差異として強調した)ポイントは、後に類似を立証する際の柱としては使えないという結論です。

 この判決が示すポイントは明快です。意匠の類否判断でも、出願経過の記録が権利範囲の解釈に影響することです。従来の特許実務における包袋禁反言の考え方が、意匠にも同様に適用されることが明確になりました。

 実務的な含意としては、米国では特に注意が必要であることが挙げられます。米国は陪審制の国です。意匠の類否判断は専門性が高いため、陪審員の説得が難しい場面が少なくありません。その一方で、「出願時とは違うことを主張している。嘘つきだ!!」という矛盾の指摘は、非常に分かりやすい攻撃になります。特に陪審員は、良い人か、悪い人かという善悪二元論で判断する傾向があるために、その影響が大きいとされています。

 また、拒絶に反論する際は、慎重に対応すべき点も挙げられます。本件でも、仮に全体の比率の違いを中核に据えて登録を得ていれば、後の権利行使の余地が広がった可能性があります(もっとも、最終的な結論は個別事情に依存します)。このように、出願段階の論点選択が、将来の訴訟戦略を大きく左右することを強く意識する必要があります。

 総じて、本判決は、意匠権でも包袋禁反言が働くことを改めて示しました。意見書を提出する場面では、目の前の拒絶解消だけでなく、将来の侵害訴訟で保持したい主張の余地を見据えて、記録に残る言い回しと論点選択を慎重に設計することが不可欠です。日本を含む各国で包袋禁反言への配慮は必要ですが、特に米国ではその運用が厳格で、訴訟における影響が大きいことを念頭に置く必要があります。

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